トランペットと男性性


トランペット。
オーケストラの中でひときわ目立つ存在です。

金管楽器のなかでも、担当する音域はいちばん高い。
金管楽器の隊長、ひいては、オーケストラの
リーダー的存在でもあり。
うまく吹ければ神のようにあがめられ。

そんなトランペットにあこがれ、
僕は昔吹奏楽部でトランペットに挑戦したことがあります。

しかし。

これが実際やってみるとたいへんむずかしい。

まず、高い音が出ない。
どうしても5線の上を超えた音が出せない。

高い音を出そうとすると、唇の皮が腫れ、むけた。

血のにじむような練習を日々積み重ね、
奏法を相当詳しく研究してみました。
でも結局、部活の先輩よりうまく吹けるようにはなりませんでした。

その難しさからか、僕は部活をやめて、すぐ挫折してしまいました。

その後、
チューバに転向してイギリスの音大に通ってみたりしたけど、
何かどうも、しっくりこないところがあって、
結局は今は楽器自体やめてしまいました。

あれだけ楽器が好きだったのに、
楽器をやめてしまった。

この楽器をやめた理由というのは、
自分自身のことでありながら
実は最近までよく分かっていなかったんです。

何かしっくりこないことがあったというのだけは
わかっていました。
でもそれが言葉に出来ない。

でもつい最近、それを言葉にすることが
できるようになってきたんです。


自分はその頃、男性性が強すぎた。
だから、金管楽器に惹かれる傾向があった。

金管楽器のプレイは全体的に男性性が
強くもとめられると思う。
それはオーケストラで求められる役割を考えれば当然。
繊細さのような女性性を要求されるところは、
スコアリングの段階で弦楽器や木管楽器に割り振られている。

男性性は金管楽器の出番。
音楽史上、作曲者も演奏者も、その理解の範疇にいれば
問題無い、というのがつい最近までの暗黙の了解だった。


もちろん、金管楽器の演奏上、女性性が必要な場面はある。

例えば、トランペットなら、
マーラー交響曲第3番フィナーレ終盤のトランペットソロ。
あれなんかは、クラリネットみたいな感じで
吹かないといけない。
神に祈る修道女のよう。絹のような滑らかさと繊細さが必要で、しかもハイトーン。
間違っても、ゴリゴリの男性性トランペットではいけない箇所のひとつだ。

しかし、そういった例外を除いては、
「デカイ音でタカイ音を当てる」ことさえできれば、
トランペットの場合は大体オーケー、のようなのだ。

僕のいた部活でもだいたいそんな雰囲気だった。

逆にそれができないならトランペットやるんじゃねえ、
クラリネットでもしゃぶってな、みたいな雰囲気だった。

もちろん、トランペットに限った話ではない。
ホルンもトロンボーンもチューバも
クラシック音楽や吹奏楽における金管楽器のプレイは
立場上、どーしても男性性が要求されまくるのである。

・・・と、今まで僕は思っていた。


でも、「男性性と女性性」という視点からこれを考えてみると、
面白いことに気づいた。

女性性という視点が無いと、金管楽器はうまく吹けないかもしれない。

これはどういうことかというと、
男性性だけでプレイすると、
いわゆる「やかましい」「うるさい」だけの金管楽器になってしまうのだ。

女性性というのは決して女々しさ(めめしさ)とかではない。
やかましくなりがちな男性性をなだめる女性性。
繊細さと調和の役割を持つのが女性性だ。
男性性と女性性が共存しており、和解した状態であることが重要なのだ。

今考えると、その部活のトランペットの先輩のプレイは、
決してやかましいだけではなく、
繊細さもそこにきちんとあった。
彼は、彼の中に存在する男性性と女性性をうまく和解させていたのだろう。
だから、あのプレイが可能だったはずだ。
(最近彼に会っていないが、もし次会う機会があったら
この辺をしれっと話してみようと思う。)

有名なトランペットプレイヤーは、演奏の中に、
自身のもつ女性性を込めることができている。
そういうプレイヤーの演奏を聴いてみると、
違いは実は、手に取るようにわかる。

自分が金管楽器をやめたのは、この辺が理解できていなかったからだと思う。
自分の中の男性性と女性性が和解できていなかった。
男性性が強すぎて、女性性が圧迫され、ほぼ
殺されかけてた。
そのために、楽器がうまく演奏できず、
結果としてつまらなくなってやめてしまった。


嗚呼、そういうことだったのか。


追記:
こう考えてみる事で、
男性性と女性性の和解だけじゃなく、
過去との和解もできてしまった。
キーワードは「和解」かもしれない。

この気づきを元に
今トランペットを演奏したら、相当上手く吹けそうな気はする。
(たぶん気のせいだけど!笑)

でもどうせなら、
女性性の強い楽器、ユーフォニアムとか、
木管楽器とか、弦楽器などで、繊細かつ調和をとりもつ女性性を
解放してあげて、育てることもしてみたくなってしまうのだ。



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